第36回「米韓FTAの発行で混沌とする韓国経済。経済植民地となった韓国を野党は救えるのか
配信日:2012年3月23日
最新情報は→2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済)
今週のメルマガは3月15日に発行された米韓FTAの最新動向を追っていく。既に、メルマガの過去記事で毒素12条項、FTAのメリット、デメリットなど は説明したので、今回はそれを踏まえての話しとなる。少々宣伝になるのだが以下の回をバックナンバーで読んで頂くと理解はぐっと深まるだろう。
第12回「鎌倉幕府を超えたウォン。通貨危機の恐怖再び。ブラックフライデー」
第18回「米韓FTAに韓国の野党が反対。アメリカの経済植民地化は防げるのか」
第31回「米韓FTAは廃棄可能なのか?韓国の野党がオバマ大統領に公開書簡を送る」
それではよろしくお願いする。では、今回の記事のチャートを貼る。
記事のチャート
米韓FTA発行→歓迎と抗議デモ→野党が早速廃棄に向けたロードマップを掲示→電算システムが間に合わないので韓国だけ関税引き下げ→韓国メーカーの冷蔵庫に不当廉売関税適用→米国の対イラン制裁解除に韓国は含まれず→今週の韓国経済
米韓FTA発行
>オバマ米大統領は14日、韓国の李明博大統領と電話会談し、15日発効の米韓自由貿易協定(FTA)について「貿易を促進し雇用創出につながる」と歓迎した。ホワイトハウスが明らかにした。オバマ氏は、発効へ向けた李氏の緊密な協力に謝意を表明し「米韓のパートナーシップが成し遂げた業績の素晴らしい例だ」と強調した。(共同)<
(米韓FTA発効を歓迎 両大統領が電話会談 – MSN産経ニュース )
オバマ大統領によればこの米韓FTAで8万人の雇用創出に繋がるそうだ。但し、韓国の大統領は何も明らかにしていない。次は経済界からの記事を見て頂こう。
>【ソウル聯合ニュース】韓国の自由貿易協定(FTA)民間対策委員会は15日、韓米FTA発効を記念するメディア向け懇談会を開き、FTA発効を歓迎する声明を発表した。
同委員会は、韓国貿易協会と全国経済人連合会、大韓商工会議所、中小企業中央会、全国銀行連合会の各経済団体会長が 共同委員長を務めている。声明は「FTAを通じ、米市場の開拓という韓国経済界の切実な願いがついに実を結ぶことになった」とし、韓米FTA発効までの長 い道のりを支援し続けた韓国国民に対し感謝すると述べた。
また委員会は、「韓米FTAは、良質の雇用創出と物価安定を通じた消費者の厚生増大により、韓国経済を一歩飛躍させるもの」と評価。韓国の経済界は同FTAを積極的に活用し、経済成長の踏み台となるよう努力すると強調した。<
このように経済界からは歓迎されている。米市場の開拓とかあるが、その前に韓国市場がアメリカに支配される方が早いだろうに。ただ、庶民にとってはFTA は自由競争を促すので、寡占化され韓国市場では値下げ合戦が始まる。つまり、庶民にとってメリットも存在する。一つ紹介しよう。
>大型マートは米国産オレンジ・牛肉を買う消費者で込み合った。 大型マートが「韓米FTA発効企画展」に入ったからだ。 ロッテマートは米国産オレンジを普段より15%安く、牛カルビは40%安く販売した。 Eマートはウェルチのグレープジュース(1.89リットル)を20%安い6100ウォン(約450円)で販売した。 ロッテマート側は「米国産牛肉は普段より50%、オレンジは25%多く売れた」と伝えた。
米国産ワインは15日、10%ほど値下げされた。 カリフォルニア産の「ロバート・モンダヴィ・カベルネ・ソーヴィニヨン2009」は7万8000ウォンから6万9000ウォンに、「カルロ・ロッシ・レッ ド・サングリア」(750ミリリットル)は8800ウォンから7900ウォンに下がった。<
(韓米FTA、「値段はおいくら?」米国産“カムリ”に価格問い合わせ電話、米製衣類は期待はずれ? )
このように米韓FTA効果でさらに外国産品が安くなった。負債に苦しんでいる国民が多い中での一斉値下げ。助かった消費者も多いのではないだろうか。もち ろん、ただでさえ少ない内需が外国産に持って行かれるわけだが。背に腹は代えられない現状がある。では、次は歓迎と抗議デモを見ていこう。
歓迎と抗議デモ
>15日午前0時から韓米自由貿易協定(FTA)が発効された中、賛成・反対の各陣営が集会を開き声を挙げた。
韓米FTA阻止汎国民運動本部(汎国本)(※3)は同日午前、ソウル光化門(クァンファムン)広場で記者会見を開き、「今日の午前0時に発効された韓米自由貿易協定(FTA)破棄のために運動を開始する」と明らかにした。
汎国本は「韓米FTAは、主権を侵害する明らかに不平等な協定」と主張し、「幾つかの財閥を除いて、あらゆる分野の国民が協定の悪影響にさらされるだろう」と語った。
会見に参加したチョン・ドンヨン民主統合党議員は、「招待したゲスト(アメリカ)が実は爆弾(不平等条約)を抱いてきたことを知ってホスト(韓国)が追い 出しにかかったら、周囲は『態度が変わった』と非難する」と皮肉り、「総選挙で勝利して、韓米FTA協定文22.2条や24.5条を使って(※4)協定の 終了の手続きを踏んでいく」と述べた。
(韓国経済、韓米FTA発効……各地で集会も「破棄」と「歓迎」が交錯 )
米韓FTA発行と同時に歓迎する一方で、廃棄の抗議デモが繰り返されるという不思議な光景である。5年もかけてアメリカと 交渉して、どうしてこうなってしまったのか。それは以前のメルマガで説明した通り、韓国の野党が米韓FTA廃棄を選挙の目玉にするためだった。まさに思惑 通りにすすんだことになる。
廃棄に向けたロードマップを掲示
>統合進歩党はまた、民主的な通商手続法を制定して国会に通商協定の全過程を牽制・調整・監督する権限を持たせ、利害関係者の声を反映する諮問委員会の設置を明示することした。
併せて政策ガイドラインを提示して
▲投資家-国家の強制仲裁制度(ISD条項)を排除
▲韓国の政策決定権限を確保するためラチェット条項(※4)排除
▲慎重な市場開放と被害を最小限に抑えるためのポジティブリスト採用
などを推進することにした。
これ以外にも通商協定被害の現実的な補償基準を設け、失業増加と社会不安対策のための常時調査班を設置することを約束した。
カン院内代表は「今日発表したロードマップに基づいて、必ず韓米FTAを破棄する」としながら「3段階の手順は、国際的慣例と法を遵守する合理的判断によ るもの」と強調した。続いて「適法な手続きと国際的基準に基づいて実行される措置なので、アメリカの報復貿易の対象とはされない」と付け加えた。<
(韓国経済、米韓FTA、統合進歩党、早々に「韓米FTA破棄」の具体的ロードマップを提示 )
管理人としてはどちらに転ぼうと面白いと思っている。手続き上は米韓FTAは廃棄可能だ。野党が政権取ればやるかもしれない。だが、アメリカがそのような 勝手な振る舞いを許すとでもおもっているのか。5年もかけて交渉してきたのだ。廃棄すれば報復が待ってるのは言うまでもない。また他国との交渉にも影響を 与えることになる。
電算システムが間に合わないので韓国だけ関税引き下げ
韓米FTAが15日に発効したが、米国では関税引き下げが適用されていない。米関税庁は15日(現地時間)、ホームページ(cbp.gov)で「韓国とのFTAによる関税率変更適用は21日から始まる予定」と公示した。
また「それまでは通関システムが特恵関税適用要請を拒否する」と案内した。21日までは特恵関税で通関申請をすればシステムにエラーが生じるため、従来の税率で入力しなければならないということだ。(途中省略)
韓国のある自動車部品会社は16日、「FTAに基づく0%税率が適用されなかった」という米国税関士の通知を受けた。この会社側は「15日からFTAで関税がなくなると聞いていたが、違うのか」と貿易協会FTA貿易総合支援センターに問い合わせた。
しかし韓国政府はこうした内容を全く知らなかった。16日、通商交渉本部と関税庁に問い合わせると、ともに「初めて聞いた。米関税庁から何も通知はなかった」という反応だった。
通商交渉本部の関係者は「FTA履行協議で米国政府に『15日からすべてのシステムが作動しなければいけない』と何度も強調したが、『問題ない』という返答だった。確認しなければいけない」と話した。
(韓国経済、米国、電算システム間に合わず…韓国だけが関税引き下げ? )
5年も交渉していたのにも関わらず、アメリカ側のシステム不備。どう見ても、対応が遅れるのはおかしいと思うわけだが、アメリカにとって米韓FTAの重要性はこの程度のものなんだろうか。
韓国メーカーの冷蔵庫に不当廉売関税適用
>【ワシントン聯合ニュース】米商務省は19日、サムスン電子とLG電子が韓国工場とメキシコ工場で生産した冷蔵庫に対し反ダンピング関税(不当廉売関税)を課す決定をした。
米商務省の決定文によると、サムスン電子の冷蔵庫に対しては韓国製に5.16%、メキシコ製に15.95%の同関税を課す。LG電子については、韓国製に15.41%、メキシコ製に30.34%をそれぞれ課す。
同関税はダンピング(不当廉売)によって、国内産業が被害を受けないよう通常賦課される関税に加え特別に課す税金。米家電大手ワールプールが両社などの冷蔵庫ダンピングを提起していた。<
米韓FTA発行直後にこのような決定を出す米商務省。ISD条項の該当に触れなそうなので、米韓FTA発行で、韓国企業に逃げ場はなくなった。
米国の対イラン制裁解除に韓国は含まれず
>【サンフランシスコ聯合ニュース】米政府は20日、日本と欧州連合(EU)
10カ国を、対イラン金融制裁法の適用対象から除外することを決定した。
イラン産原油の輸入を画期的に減らしたことが評価された。一方、同じくイラン産原油の輸入国である韓国は適用除外とされなかった。米メディアが報じた。
同制裁法は、石油輸入でイラン中央銀行と取引した各国の金融機関を米金融システムから締め出すもの。<
(韓国経済、米国の対イラン制裁の適用除外はEUや日本など10カ国で、韓国は適用除外に含まれず )
米韓FTAを発行すれば、多少なりとも韓国はアメリカとの距離が縮まると考えていたと思う。だが、見事にそんなことはなかった。むしろ、ISD条項も適用されることで追いつめられている。これが管理人の率直な感想である。
今週の韓国経済
日付 KOSPI ウォン KOSDAQ 外国人(ウォン)
19日 2047.00 1122.3 539.83 368億
20日 2042.15 1124.9 535.55 -25億
21日 2027.23 1129.5 533.93 -1592億
22日 2026.12 1129.4 527.90 -509億
23日 2026.83 1135.3 527.47 470億
今週の市場だが、徐々にウォン安傾向になっているのだが、KOSPIは2000台を維持したままだ。もうすぐ選挙なので株価は2000台を維持していくと予想する。
ウォンレートも1150ウォンぐらいまでは下げても、それ以上はウォン市場へ介入が入ると思われるので、このレート水準を維持していくことだろう。1100~1150ぐらいまでが最近のトレンドだと考えている。
以上。今週のメルマガはこれで終わりだが、次回は「関税と自由競争について」の経済的な視点を取り上げたい。FTA、TPPにも関わるが自由貿易というものが本当に公平な競争を造り出すのか考察する。そして、その結果が現在の韓国経済そのものを浮き彫りにすると思われる。
読者様の購読に深く感謝する。これからも応援のほどを宜しくお願い致します。
また、韓国経済のことで取り上げて欲しいネタ、ジャンルなどあれば気軽に依頼して頂けるとありがたい。ある程度の内容が書けそうなら、ネタとして使うかもしれない。