第66回「オバマ氏の再選の裏に進むウォン高。韓国経済にとって最悪なシナリオに」
配信日:2012年11月9日
最新情報は→2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済)
今週のメルマガはアメリカ大統領選挙の話題を韓国メディアから取り上げる。韓国経済にとってオバマ氏の再選はどうだったのか。どうして、オバマ氏が当選しそうになれば、円高、ウォン高が進んだのか。
市場というのはシビアなもので、投資家にとってオバマ氏の再選はドルの投げ売りの材料だったことになる。では、記事のチャートを貼る。
記事のチャート
オバマ大統領が就任した4年間のウォンとKOSPI→韓国メディアの分析→今週の韓国経済
オバマ大統領が就任した4年間のウォンとKOSPI
オバマ大統領が就任した正確な日付は2009年の1月になるわけだが、その頃の韓国経済は死にかけていた。2008年9月のリーマン・ショック後からウォン安が加速して、2009年の2月に1593ウォンの最安値となってしまい、非常に注目されていた。
IMF入りも囁かれていたわけだが、これを米韓通貨スワップ協定300億ドルをアメリカ、そして、日本と中国と結んでなんとか外貨獲得に成功して危機を乗り越えた。ちなみにスワップ協定を使ったのは韓国だけである。どれだけ危機的なドル不足だったのかよくわかるだろう。
それからウォン安を背景に輸入を減らし、輸出を増やして過去最高の貿易黒字を達成していく。いわゆる不況型黒字を積み上げていった。そこからはずっとイン フレではなく、スタグフレーションが続いていく。韓国ではインフレだといわれているが、分析すれば賃金がほとんど変わってなく、物価だけあがるのはスタグ フの典型例である。
そして、韓国経済はリーマン・ショックからアジアでいち早く立ち上がったと吹聴された。しかし、第2次韓国経済危機はリーマン・ショックのために起こった わけではない。2008年の9月に管理人がブログで韓国経済を特集したのはリーマン・ショックを予想していたわけではないのだ。
増加する海外債務にロールオーバーが出来るのかに注目して、出来なければIMFといったコースを考えていた。むしろ、リーマン・ショックの引き金を引いたのは韓国だったと感じている。
それについては過去に何度か触れたのだが、危機的な状況になっていたリーマン・ブラザーズの買収に巡って韓国も一枚かんでいた。当時、韓国は債務を支払うのに必要なドルが不足していた。
しかし、なんとかドル不足を補えるようになったと見た直後、急にこの買収を打ち切った。他の銀行は韓国が買うのだと思っていたために、突然の打ち切りに驚 き、それがリーマン・ブラザーズの破産に繋がった。歴史にifはないし、これが韓国の責任だとはいわないが、引き金を引いたという意味では韓国も無関係で はない。
それがよかった、悪かったか、分析は後世の歴史家に任せるとして、それから4年間は表向きにはウォン安もあって、韓国経済は絶好調といわれている。今もそ うである。CDSスプレッドがフランス以下になってしまったぐらいだ。ウォン高への布石が埋め込まれているのがよくわかるだろう。
韓国メディアの分析
>米国の“財政の崖(fiscal cliff)”危機感が韓国金融市場を襲った。株価が大幅に下落し、韓国ウォンは値下がりした。
米大統領選挙でオバマ候補が当選したことで、増税や財政支出減少などで経済活動を急激に委縮させる“財政の崖”が現実化するという見方が強まったのだ。国会予算政策処は「財政の崖が迫れば韓国の経済成長率が0.5%ポイントさらに落ちる」という分析を出している。
8日のKOSPI(総合株価指数)は1%以上も下落し、1914.31で取引を終えた。KTB証券のイ・ジヒョン研究員は「大統領選挙結果発表前の期待感は消え、財政の崖とユーロ圏の危機感がまた浮上した」と分析した。
外国為替市場では韓国ウォンが米ドルに対し前日比3.9ウォン値下がりした1ドル=1089.3ウォンで取引を終えた。不安感が強まれば、相対的に安全資産の米ドルが韓国ウォンに対して値上がりする。
格付け機関フィッチは7日(現地時間)、米国が財政の崖を避けられなければ、来年格下げもあると警告した。
(韓国総合株価が大幅下落、米国“財政の崖”危機感強まる | Joongang Ilbo | 中央日報)
このニュースは8日の状況であるが、後で今週の韓国経済で数値を追いながら説明していきたい。少なくともオバマ再選を喜んでいるという気配は中央日報からは感じられない。では、聯合ニュースを見てみよう。
>【ソウル聯合ニュース】オバマ米大統領の再選が確実となったことで、韓国輸出企業の不確実性はやや減少すると予想される。
韓国貿易協会と大韓貿易投資振興公社(KOTRA)などによると、オバマ政権の2期目は韓米自由貿易協定(FTA)を通じた両国間の通商協力を続けながらも、自動車など自国の製造産業と雇用を保護するため、保護貿易主義の基調を維持するとみられる。
◇韓国の「チャンス要因」は
オバマ政権の政策的連続性を踏まえれば、韓国輸出企業の不確実性は減少すると予想される。特に建設または代替エネルギー関連企業は対米輸出の好機になると期待される。
オバマ氏が地球温暖化防止に向けた再生可能・代替エネルギー産業を育成し、エネルギー効率性の拡大政策を続ければ、太陽光や風力など関連産業で韓国企業に肯定的な影響を与える可能性がある。
オバマ政権は2020年までに原油輸入量を半分に減らし、風力、太陽熱、バイオ燃料など代替エネルギー産業を支援する方針だ。
そのほか、低公害石炭、原子力、バイオ原料、ハイテクバッテリー、シェールガスなどに対するオバマ政権の低炭素支援事業では韓国企業が参入できる部門が多い。
米国は9月の米連邦準備制度理事会(FRB)で量的緩和第3弾(QE3)を打ち出してから、景気回復の兆しを見せており、今後、機械・設備および代替エネルギー分野で輸出のチャンスが拡大すると見込まれる。
オバマ政権はFTAに対し、米国の輸出拡大と海外投資をけん引し、自国の経済成長と雇用創出に寄与すると肯定的な立場を堅持している。
韓国は世界景気の低迷で輸出が鈍化しているが、対米輸出は3月の韓米FTA発効以降、相対的に善戦している。
海外企業の米国進出を奨励する「開放型投資政策」を通じ、雇用創出を図るオバマ政権1期目の「海外投資誘致法」が確定すれば、韓国企業の投資促進の礎になるとみられる。
韓国は米国や多数の環太平洋経済連携協定(TPP)加盟国とFTAの締結または発効を行った状態であるため、追加のTPP交渉への参加が相対的に容易となる。
TPP交渉の中身には「米製品の義務調達規定」の適用を禁じるとの内容が含まれており、韓国が今後TPPの加盟国として参加すれば、米調達市場に対する韓国企業の進出が有利になるとみられる。
ただ、通商専門家たちは、これまでオバマ政権が推進した主な通商政策は続くとみられるが、現在議会で継続審議中の一部の法案などが対米貿易や投資環境に影響を与える可能性があるだけに、継続的なモニタリングが必要だと指摘した。
◇「危険要因」も存在
オバマ大統領が自動車など自国の主要製造産業と雇用保護のため、不公正な慣行を問題視している点に注目する必要がある。
実際に、オバマ政権が集中支援する自動車と太陽光など再生エネルギー分野で米国と中国間の貿易摩擦が続いている。
米国は昨年から現在まで中国の米国産自動車・鶏肉反ダンピング(不当廉売)関税、自動車部品メーカー補助金支給などに関連し、世界貿易機関(WTO)に提訴し、さらには太陽光パネルなどに報復関税を課した。
オバマ政権が「アジア重視」を掲げながらもアジア市場に対する影響力の拡大を示唆していることから、中国だけでなく韓国もその影響を受けずにはいられない状況だ。
KOTRAによると、米国においてこの4年間に不公正な貿易慣行を是正するとして韓国を対象にした反ダンピング、相殺関税審議および判定が急増している。
2011年10月、韓国製冷蔵庫ダンピング予備判定、今年6月の韓国製洗濯機相殺関税予備判定、7月の韓国製変圧器ダンピング最終判定および洗濯機のダンピング予備判定がその代表だ。
万が一、韓米FTAに対する否定的な世論が拡大すれば韓国製品に対する貿易圧力が高まるきっかけになりかねない。FRBの量的緩和により米消費者の心理が一部回復しているものの、ウォン高により韓国製品の輸出に影響が出ていることも懸念材料だ。
韓国貿易協会は原油価格に関連し、オバマ政権が対イラン武力対応には慎重な姿勢をみせているため、国際原油需給動向を考慮する際、原油高騰の可能性は小さいとみている。
原油価格が安定すれば韓国企業の輸出入に対するマイナスの影響も制限的なものになると予想される。だが、米国の景気浮揚策の失敗やイスラエルのイラン単独攻撃の可能性など原油高を招く要因が引き続き存在することに注意しなければならない。
◇米国の業界・専門家の産業別見通しは
KOTRAはワシントン、シカゴ、ロサンゼルス、シリコンバレーなどの貿易館で現地の業界関係者やコンサルティング専門家らにインタビューを行い、オバマ大統領の再選による各業界への影響をまとめた。
流通業界のあるバイヤーは、自動車部品業界では中間所得層に対する税制支援、富裕層への増税を通じて景気てこ入れを図るというオバマ大統領の政策が、需要 拡大に追い風になると見込んだ。一方、再生可能エネルギーの育成に向けた燃費規制の実施などで、関連部品の製造・開発費用に対する負担は増す見通しだ。
鉄鋼業界については、米国の建築市場は全般的に低迷しているものの、住宅市場が最近持ち直していることから、来年から鉄鋼消費量が増加を続けるとバイヤーらは分析している。
だが、米国に進出したある韓国企業関係者は、関税・非関税障壁が依然として存在する上、中国や韓国の製品に対する反ダンピング(不当廉売)調査・提訴も続くと見込んでいる。
IT(情報技術)関連産業は、米国で「韓国を見習おう」というムードが広がっていることから、今後さらに両国の連携が深まる見通し。
また、シリコンバレーのIT企業関係者は、韓国が韓流ブームを追い風にコンテンツ産業を発展させており、オバマ大統領も「ネット中立性」の原則に基づき事業者の権利を積極的に保護しているため、韓国のコンテンツ産業は将来有望だと見込んだ。
機械類は、韓米FTAの発効で貿易が増えると見込まれるなか、米国の対中貿易赤字に対する強硬姿勢が韓国にとって「漁夫の利」になり得る、との見方も出ている。
繊維については、米国国民の消費心理が持ち直せば、韓米FTAを追い風に衣類の対米輸出が拡大する見通しだ。製薬・医療機器は、「医療保険改革法」がジェネリック医薬品メーカーに好意的なため、ジェネリック医薬品メーカーが大半を占める韓国に有利とみられる。<
(聯合ニュース)
かなりの長文だったのでどこかで切りたかったのだがそれがない。
かなり楽観的な見通しだと思うのだが、どう見てもアメリカの対応、景気次第と書いてある。韓国がTPPにも参加するのか。米韓FTAも発行していてか。FTAが相対的に善戦しているという文章が苦しい。実際の数値はしていないためだ。
オバマ大統領が自分の成果として米韓FTAで雇用が創出されると述べたぐらいだ。韓国に有利になるはずがない。ウィンウィン関係なんてただの幻想に過ぎない。
今後、オバマ大統領が雇用創出に全力を挙げるなら、ますますダンピングや不公正取引が取り締まられるのはいうまでもない。最近、アメリカでは韓国車の燃費水増しがばれて、大変なことになっているのだが、これは次回に特集したい。
今週の韓国経済
日付 KOSPI ウォン KOSDAQ 先物 外国人(ウォン)
05日 1908.22 1091.20 515.14 250.25 -669億
06日 1928.17 1090.70 517.53 252.90 -23億
07日 1937.55 1085.40 518.45 254.05 1222億
08日 1913.26 1089.35 517.56 250.65 340億 ←スムージングオペレーション
09日 1904.41 1087.15 519.90 249.30 -2269億
今週の韓国経済でキーワードになるのは、財政の崖とスムージングオペレーションだ。
財政の崖とは
2000年代から始まったアメリカのブッシュ政権の大型減税策の期限が2012年末に迫っている。それに追加して、2011年にアメリカの債務上限が問題 になったのは記憶に新しいだろう。ブログでも財政危機について特集した。それが、2013年1月からの強制的な予算削減が行われる。その額は10年間で1 兆2000億ドル。
このように2013年から減税が切れて、実質増税となり、強制的な予算削減という二つの危機的な事態を崖から落ちたような衝撃ということで、「財政の崖」と呼んでいる。最近、よく出てくるキーワードなので、覚えておくといいだろう。
もう一つスムージングオペレーションとは何なのか。8日の流れニュースを見て頂きたい。
(ソウル=聯合インフォマックス)チョン・ソニョン記者=ドル/ウォン為替レートが1,080W台後半でレベルを高めた。 前日バラク・オバマ米国大統領当選に1,080W台に底点を下げたことによるショートカバーと米国の財政の崖懸念に伴う域外差額決済先物為替(NDF)投 資家の買い傾向にドルが反騰した。
ソウル外国為替市場で8日ドル/ウォン為替レートは前日比3.90W上がった1,089.30Wで取り引きを終えた。ドルは場序盤から1,080W台後半 で小幅上昇した後、輸出業者NEGO物量出会に上昇幅が制限された。域外NDF投資家のショートカバーも現われたがドルが1,090W線に近接するとすぐ NEGO物量が流入した。
外国為替市場参加者は取引終了の通貨当局が終値管理性スムージングオペレーションに出たものと推定している。
以上。最後に出てくる終値管理性スムージングオペレーションというのがわかると思う。これって聞き慣れない用語だが、為替介入とほぼ同義だと思われる。つまり、為替介入といいたくないので、無理な造語で表現している。では,8日と9日のウォンの動きを追っていく。
8日目
1085.4ウォンが限界だったようだ。そこから介入が入って数分で4ウォンほど下がっている。あくまでも推測であるが、実際は4ウォン動くなんてまずないので介入、謎の用語、終値管理性スムージングオペレーションが行われたという推察はあながち間違ってはいないだろう。
つまり、韓国銀行の阻止限界点は1085ウォン付近だったことになる。これも予想範囲内だ。そして、1089.35ウォンで取引が終わる。さて、9日目はどうなったのか。こうなってくると韓国銀行が介入してくるのは予期できる。
9日目
朝にも1092ウォンまで下げている。そこから攻防が続くのだがウォン高の圧力は弱まらない。11時を過ぎた頃から怒濤のウォン高が進行する。一気に 1085.4ウォンまで行くと、ここでも終値管理性スムージングオペレーションが行われて、また1089ウォンまで数分で盛り返した。非常にわかりやすい 動きだ。それに釣られて1092ウォンまで下がるが、再びあがっていき、最後は1087.15ウォンで取引が終わった。
1085ウォンを突破されたくないようで来週もここに注目だ。だが、どう考えてもウォン高の圧力には勝てそうにない。韓国の輸出企業が1086ウォンが限界だという調査結果がでているので、ここを突破されたらいよいよ輸出企業に危機的な水準となる。
以上。今週はアメリカ大統領選があったわけだ、その裏ではウォンは危機的な状況を迎えていた。為替介入が二度以上行われたようで、今後とも気になる展開だろう。
さて、次週もその動きを追っていくのはもちろん、ジャンル別では久しぶりに韓国の自動車輸出の話題を取り上げたい。ウォン高で苦しくなる自動車輸出。そこに燃費水増しがばれて倒産するまで賠償金を払わされることに……。
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