第91回「円安で価格競争力低下の韓国企業。円キャリートレードの巻き戻しを恐れる韓国経済」
配信日:2013年5月27日
最新情報は→2011年 韓国経済危機の軌跡(週間 韓国経済)
今週のメルマガは円キャリートレードについてである。円キャリートレードの用語を説明しつつ、今、韓国経済に何が起こりつつあるかをわかりやすく解説していく。では、記事のチャートを貼って早速始めて行こう。
記事のチャート
円キャリートレードとは→円キャリーの巻き戻し→円キャリートレードにおける二つの懸念材料→今週の韓国経済
円キャリートレードとは
日本の長期不況が生み出した低金利を利用したトレード。考え方はFXで一般的なスワップポイントにも似ている。つまり、日本が低金利をずっと続けているの で投資資金を円で借りて利息を安くして、その借りたお金を利回りが比較的に高い韓国のウォンなどで運用することだ。簡単な例を出しておこう。
日本円で100万借りて利息は低金利の0.01%だとする。この100万円を金利が2.75%の韓国ウォンに投資したらどうなるかである。
計算するまでもなく、高い方が儲かるので、100万円の利息を引いても、利益が出ることになる。このような投資方法を「円キャリートレード」という。例で は韓国をあげたが、金利が高い、オーストラリア、カナダといった国でもこのような円キャリートレードが盛んに行われている。大事なのはこの順番と円安効果 である。
低金利の日本から資金を借りて、その資金を新興国などの投資に使う。韓国の場合もこのような資金の流れがあり、それが韓国の投資にも呼び水となっている。ただ、韓国がもっとも心配するのは円安効果の方だ。
■円安効果
円キャリートレードが増えれば、円売り・ドル買いが進むため、為替市場は円安・ドル高となる。投資家が日本の円を借りるということは、円の流通量が増える。つまり、それだけ円の供給量が増えるために円安となるわけだ。
円キャリーの巻き戻し
では、円キャリーの巻き戻しは何なのか。説明は簡単だ。先ほどと逆の現象が起こること。日本が他の新興国より、低金利だからという前提があるために成り立つのが円キャリートレードなので、各国が日本のように低金利となったらどうなるかを考えればいい。
こうなってしまうと、韓国のような新興国の投資は減少してしまう。投資の魅力がなくなり、北朝鮮問題を始め、リスクだけが顕在化してしまうためだ。これは韓国からの投資引き上げを意味する。
さて、現在のところはそのような現象は起きていない。だが、日本の景気が回復すれば、金利を上昇する動きは必ず現れる。それが数年後になるかはわからない。アベノミスクで確かに日経平均は15000円台を突破したが、これは方向性を示したにすぎない。
実行するのはまだまだこれからであり、順調だった日経平均も、木曜日と金曜日は激しい乱高下が繰り返されていた。ヘッジファンドや外国人の利益確定だと思われるが、原因だった中国より下がっているところを見れば、小さなバブルが起きていたのかもしれない。
では、話を韓国経済に戻す。
円キャリートレードにおける二つの懸念材料
円キャリートレードが加速すると円安になることは上で説明した。円安になるとどうなるかはメルマガでも何度も取り上げてきたとおり、韓国企業の価格競争力が低下してしまう。
品質で劣る韓国製品が、高品質でさらに円安で安くなった日本製品に勝てるはずもない。つまり、韓国には円キャリートレードで二つの不安材料を抱えているのだ。
1.円キャリートレードの資金が韓国に流入して、その後、一斉に引き上げる
2.円安が加速して、価格競争力がますます不利となる
このような懸念材料を示すニュースが5月16日の朝鮮日報に掲載されている。ご覧頂こう。
>(最初省略)低利の円資金を高金利の海外に投資する「円キャリートレード」が本格化するのではないかとの見方も浮上している。円キャリートレードは円安に拍車を掛ける可能性が高く、韓国にとっては新たな悪材料となる。
■海外投資増やす日本の投資家
日本の財務省によると、日本の投資家による海外投資は、先月21日以降の2週間で4636億円の買い越しだった。
4月中旬までは海外の資金が日本に流入していたが、資金が逆流し始めた格好だ。日本の投資家はアベノミクス (安倍首相の経済政策)で日本株が上昇したことを受け、4月中旬までは9兆5000億円の海外投資資金を日本に還流させた。
こうした動きは、円資金の需要を増やし、円安の進行を遅らせるブレーキの役割を果たした。円キャリートレードの出現は、円安を抑えたブレーキが外れること を意味する。4月下旬以降、資金の流れが逆転したのは、主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で円安政策が容認されたことがきっかけと なった。
朴海植(パク・ヘシク)金融研究院上級研究委員は「円安に対する市場の期待がさらに高まり、円キャリートレードが増えれば、世界的に円安の流れが加速する可能性がある」と述べた。
韓国銀行は先月30日「円キャリートレードの最近の推移と拡大可能性点検」と題した報告書で「日本は大規模な金融緩和に積極的に乗り出しているが、米など はこれまでの量的緩和政策(債券買い入れなど)を徐々に縮小する可能性が高い。そうなれば円安だけでなく、日米間の金利差が拡大し、円キャリートレードが 拡大する可能性が高い」と分析した。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの調査によると、米国の経済専門家の55%が年内に米国の量的緩和政策の縮小が始まるとみている。
一方、IM投資証券のイ・ジョンウ・リサーチセンター長は「円キャリートレードが増える可能性があるが、日本と先進国の金利差が小さいため、2000年代の初めや半ばのような大規模な流れにはならないのではないか」と予想した。
韓銀によると、2000年以降、円キャリートレードは3回活発化したが、過去には先進国と日本の金利差が4-5ポイントに達していたのに対し、現在の金利差は0.29ポイントにとどまっている。
■韓国への影響は?
円キャリートレードの資金が韓国に影響を与えるルートは二つある。一つは直接韓国の株式・債券市場に資金が流入し、あるタイミングで急激に資金が引き揚げられるパターンだ。もう一つは世界的に円安が加速し、韓国の株式市場などに影響を与えるリスクだ。
まず、円キャリートレードの資金が韓国に大量に流入する兆しはまだない。金融監督院によると、日本の投資家は3月に韓国株を510億ウォン(約47億円)買い越した。買い越しは昨年7月以来8カ月ぶりとなる。
当面比較的大きいリスクは、円キャリートレードで世界的に円安が加速することだ。イ・センター長は「過去に比べ、円キャリートレードがそれほど活発ではないとしても、衝撃は過去より大きい可能性がある」と指摘した。
2000年代初めと半ばの円キャリートレードは、1-2年かけて円が対ドルで10-20円下落したが、今回はわずか半年で20円も円安が進んでいるためだ。<
(http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/05/14/2013051400366.html)
これで、管理人がメルマガで特集した理由がわかったのではないだろうか。最後の一文が気になったのだ。半年で20円の円安となった。実際、どこまで円安が進むかは不透明だ。
円キャリートレードが増え、さらなる円安となれば、価格競争力が低下する韓国企業に勝ち目はない。それは輸出の縮小を意味する。貿易とはパイの奪い合いがほとんどだからだ。貿易でしか成り立たない韓国経済がさらに悪化することは目に見えている。
今週の韓国経済
日付 KOSPI ウォン KOSDAQ 先物 外国人(ウォン)
20日 1982.43 1116.80 567.32 259.40 895億
21日 1981.09 1110.60 572.69 259.10 596億
22日 1993.83 1114.00 574.25 260.10 1353億
23日 1969.19 1128.70 569.34 257.15 140億←日経平均爆下げ
24日 1973.45 1127.75 574.06 257.80 -860億
以上。今週の予想レートは1110~1125だった。ウォン安になるのは予想通りではあるが、表だった為替介入がなかった。1125がマジノ線だと思っていたが、どうやらまだウォン安にしたいようだ。
23日、中国経済失速により、日経平均が大幅に下がったことを受け、そのリスクの影響か、ウォン安が加速した。10ウォンほど下がったのだが、次の日は1130ウォン台を突破した。
日経平均の動向がウォン安にも影響が出ていることがわかる。ただ、KOSPIはあまり変わっていない。外国人投資家も投げ売りに来ていない。
来週の予想ウォンは1120~1140にしておく。少し多めに幅を取ったのは介入が来ない限り、ウォン安傾向が続くと見ているからだ。ただ、1140まで行けば介入が来てもおかしくはない。今後の韓国政府の為替動向は注視したい。
さて、来週の予定は韓国の対日貿易赤字についてである。このテーマで切り込むのはわりと初なのだが、韓国という国は円安、円高でも対日貿易赤字が膨らむ特殊な経済構造をしている。そこで、最新の対日貿易赤字と過去の対日貿易赤字を振り返り特集してみたいと思う。
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